鑑定をしないで後見をスタートさせることはできるのでしょうか?
最近よくあるシチュエーション
家庭裁判所の仕事ぶりに違和感を覚える人が急増しています。なかでも多いのが「医師による鑑定がないまま後見開始の審判が出たけどいいのでしょうか?」というものです。実際、「鑑定をしないで後見をスタートした家庭裁判所は手続き飛ばしだからアウト!審判やり直し」と高等裁判所から怒られた家庭裁判所も見受けられます。
ここでは、後見人をつける前に行う医学的鑑定について解説します。
鑑定実施率は1割に届かない
家庭裁判所の業務内容や事務手続きに関するルールは「家事事件手続法」に収められています。その119条には「家庭裁判所は、鑑定をしなければ、後見をスタートさせてはいけない」ということが明記されています。しかし、平成28年の統計をみると、スタートした後見案件のうち鑑定が行われたのは1割弱にとどまります。実数でも、年間2万6千件程度の後見案件がスタートしていますがその約2万3千件(9割強)が鑑定なしで審判が出ています。
なるほど、「鑑定なく後見を開始された」ことに違和感を覚える人が多いわけです。
1.「鑑定飛ばし」を問題視する即時抗告や裁判が増えるわけ
すべき「鑑定」が省略されていることがさほど問題視されない背景には119条の「ただし書き」があります。条文を見てみましょう。家事事件手続法119条「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」。つまり、明らかに鑑定が必要とない場合は鑑定なく審判してよいというのです。
では、「明らかにその必要がないと認めるとき」とはどのようなときなのでしょうか?それは「診断書等から、本人は、いつも、何も、わからないと思われる場合」と言い換えることができます。すると、例えば、診断で一般的に使われる長谷川式の点数が0点なら鑑定は必要ないかもしれませんが、7点であれば「明らかにその必要がないと認めるときにあたらないから鑑定をしないと後見のスタートはできなかった」と言ってもよいでしょう。
なるほど、「鑑定飛ばし」を争点とする即時抗告や裁判が増えるわけです。
2.なぜ、後見開始の審判前に鑑定が必要とされているのか
被後見人になることで本人に生じる窮屈さや費用負担は計り知れません。例えば、被後見人になると、銀行に行っても相手にされなくなるでしょう。自分のお金を自由に下ろせないし使えなくなるでしょう。また、被後見人が後見人に払う費用もばかになりません。月5万円として年間60万円、10年で600万円に達します。
「このような窮屈さや負担を強いることになる後見をスタートさせる前にきちんとした医学的検査をしておこう」ということで導入されたのが、家事事件手続法119条(精神の状況に関する鑑定)です。それが9割がた省く現状を改善し、多くの利用者からの納得を得られる運用を実施するためには、
- 119条のただし書きを削除する
- 119条のただし書きの”さじ加減”を見える化(定義・標準・明示)する
- 低コストで有効な鑑定手法を確立する
などが求められるでしょう。
3.鑑定飛ばしを見つけたら
後見をスタートさせる前の鑑定飛ばしを見つけたら、また、そのことで結果が本来あるべきものと違うように思う場合は、改善策を取りましょう。具体的には、鑑定飛ばしを知ったのが後見開始の審判から2週間以内であれば「即時抗告」をします。審判が確定した後に鑑定飛ばしを見つけたら「再審請求」をします。即時抗告は難しくありませんが、再審請求の手続きは難しいので弁護士さんに頼むと良いでしょう。
まとめ
後見をスタートさせる前にきちんとした医学的検査をしておこうということで導入されたのが、家事事件手続法119条(精神の状況に関する鑑定)です。
しかし、多くの場合で「鑑定飛ばし」が常態化しており、それを争点とする即時抗告や裁判が増えています。制度の適切な運用を鑑み、鑑定飛ばしを見つけたら「即時抗告」や「再審請求」をしてみてください。
最近のお悩みの傾向について
解説:一般社団法人「後見の杜」宮内康二代表
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私たちは、後見される側やそのご家族の立場にたって、
一つ一つの後見事例の適切な運用をサポートします。
複雑な後見制度を紐解き、その運用を改善・向上していきましょう。