市長申し立ての注意点
虐待≠市長申し立て
「虐待」を理由に「市長申し立て」をする自治体が多いようですが要注意。裁判沙汰になっている自治体もあるので、基本をおさらいしておきましょう。
第27条(財産上の不当取引による被害の防止等)
いわゆる「高齢者虐待防止法」27条に「市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある高齢者について、適切に、老人福祉法32条の規定により審判の請求をするものとする。」とあります。換言すると「経済虐待が明らかな場合、または、経済虐待を受けそうな場合、本人や家族の意向を踏まえながら、市区町村長は後見の申し立てをしましょう」。
つまり、虐待といっても、経済虐待が後見の市長申し立ての対象であり、身体的虐待などを理由に市長申し立てをすることは想定されていません。後見制度の基本は財産管理ですから、当然といえば当然でしょう。
虐待の定義
虐待の定義や種類を確認しましょう。虐待防止法2条に「養護者による高齢者虐待とは、次のいずれかに該当する行為をいう。」とあります。
1 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
2 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
上記1の「ぶったり、放置したり、心を苦しめたり、わいせつな行為をしている」といって後見の市長申し立てはしません。2の経済虐待「勝手に親の財産を売り飛ばした、親にお金を使わせず自分が親のお金を使っている」場合、老人福祉法32条に基づき「市長申し立て」をしましょうということになります。
「あざがあったから」とか「介護サービスを受けさせないから」ということで市長申し立てするケースが増えているようですが、この根拠を虐待防止法に求めることはできません。
「身体・放置虐待=後見申し立て」という実態に「法律に根拠のない行為をなぜするのか?」という裁判が生じています。そのような裁判は本人・家族・自治体のいずれにも生産的な話ではないでしょう。自治体におかれては根拠法をベースに、現業の市長申し立てのフローや根拠を確認ないし補強しておいたほうが良いかもしれません。
老人福祉法32条(審判の請求)
市長申し立ての根拠として採用されることの多い老人福祉法32条もおさらいしておきましょう。
第三二条 市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。
ポイントは「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」と「市長申し立てできる」です。
「その福祉をはかるために特に必要があると認めるとき」は解釈の問題になります。しかし「他に同様の住民がいるのになぜその人の市長申し立てをせず、本件だけなのか?」と問われたり「特に必要があるというのはどのようなときか?その規定はあったのか?」と問われると自治体は勢い劣勢になるでしょう。
「市長申し立てできる」については、2000年以降は「できるのになぜしない」という議論が多くありました。後見促進法ができてからは「民法でいう事務管理や措置などの方法があるのになぜ後見なのか?」という議論が増えています。従来との整合性や他策との優劣に対する合理的理由を持たないといけなくなりましたがハードルは結構高い。
禁治産者を増やす福祉政策ってどうなんだろう?
ある家裁は、地域の自治体に、被後見人等の数情報を提供しています。背景には「人口比に比べ後見制度の利用が少ないから市長申し立てやってバランスさせてください」というメッセージがありますが数年前まではそのような情報提供はありませんでした。後見促進法の効果というか影響でしょう。
しかし、後見の利用を増やすということは「禁治産者」や「無能力者)を地域に増やすことに他なりません。ちょっと異様な感じでしょう。
「後見人さんがついたからあとは後見人さんとやってください」という自治体も増えています。後見を使わせるという手段に走り「本人の生活を正常化させる」という本質から離れてしまっているような気がしてなりません。後見を使うことで住民の福祉が向上するならよいのですが、そのような関係は依然不明確です。
海外に学ぶ日本の今後
後見が進む海外では「後見センターに施設入所を命じられ国外亡命した高齢者(被後見人)」がいます。「後見センターから子供(未成年被後見人)を母親から引き離すと言われ心中してしまった家族」も実存します。
その後見センターは弁護士と社会福祉士が自治体に雇われる形で運用されています。いったい誰のための後見なのか、公費の使い道の結果としてあっているのか、身につまされること少なくありません。
同時に、そのような運用を目指すわが国に散見される「後見の形式的盛り上がり」が「良からぬ前兆」に映ってなりません。